ワインと魚介類との相性
ワイン好きの方の間でまことしやかに囁かれているのが、「和食の魚介類とワインって相性難しいよね・・・」ということです。「いやいや、魚介類と言えば白ワインでしょ?!」とおっしゃる方も多いと思いますが、実際に食べ合わせてみると、なるほど生臭くなってしまう組み合わせが確かに存在します。例えば私の実体験で言うと、”鮭とば”と白ワインは難しい組み合わせに思いました。
2010年に発表されたメルシャンの研究報告により以下のことが分かってきました。
・魚介類とワインを合わせることで初めて発生する生臭みについて調査した。もともと持っているにおいが”強調される”ケースなどは対象としない。
・最初にワイン中のどの成分が魚介料理と衝突するか検証し、次に特に衝突の見られたホタテの干物をワインに浸し、発生する揮発成分の同定と定量を行い生臭みの発生メカニズムを検証した。
・ワインの味や香りにはほとんど影響を与えない微量成分のFe2+が魚介に蓄積された過酸化脂質と口の中で化学反応を起こし、生臭みの成分や金属臭を発生させる可能性が示唆された。
日本酒と牡蠣でも同じ経験が!?
ワインにおいてみられるこの現象は、ワインのみならず日本酒においてもみられることがあるのではないかと考えています。私自身の実体験として生カキと日本酒の組み合わせによって生臭みが口の中で増幅されてしまうことは、これまでにもありました。この現象は同業者とも「そういうことあるよね」と同調する部分ですので、たまたま酒器に鉄分が付着していた、などの偶然によるものではないと思われます。
しかし、日本酒に含まれる鉄分の量はワインと比べると著しく少ないことが分かっています。原料のお米における含有量、醸造過程における発生量共に微量であることも分かっています。日本酒において、ワインと同様のメカニズムで鉄によって生臭みが発生していたと仮定するならば、どのような可能性があるでしょうか。一つには醸造から瓶詰までの過程での機器等からの微量の取り込み、一つには醸造用水からのキャリーオーバーという可能性が考えられるかと思います。
日本酒醸造における鉄分
ここで、1963年と古い研究ですが、以下のような報告がなされています。
・19酒造場の清酒について、原料米、酒粕、仕込水、製品となった清酒の4項目について含有鉄分を定量した。
・仕込水中の鉄分と清酒中の鉄分は、分量、色度において相関があった。
・清酒中の鉄分と、原料米中及び酒粕中の鉄分に相関は見られなかった。
・原料(米+水)の鉄分<製品(酒粕+清酒)の鉄分ということが有意水準5%で言え、もろみまたは酒への鉄の混入がかなり一般的な傾向としてあるのではないかと考えられる。
この報告を合わせ考えると閾値を超えて味に影響を及ぼすケースにおいては、原料由来よりも醸造過程で付与されている可能性が考えられます。
この報告自体が1963年の報告であるので、現在稼働中の醸造設備は当時のものから一新されているケースも多いかと思います。ただ、古い設備であれば日本酒の醸造過程で鉄分の混入の可能性はあり、場合によっては食事との食べ合わせに影響を与える可能性があることを示唆しているのではないかと思います。
まとめ
・ワインにおいて、魚介の生臭みは魚介に含まれる過酸化脂質とワインに含まれる鉄が反応することで増幅される。
・日本酒に含まれる鉄分は一般的にはワインよりも少ないが、中には魚介の過酸化脂質と反応して閾値を超えて生臭みを増幅するものもある。
・日本酒に含まれる鉄は原料の水に左右されるが、醸造過程での混入も考えられる。
ペアリングのために日本酒に含まれる鉄分を考慮して日本酒を選ぶ場合には、お米の品種や製造法、スペックなどから判断しようとしても難しく、どこの醸造場で醸造されたものなのか、その環境から判断して選ぶ必要があるように思います。
この分野に関する研究はまだまだこれからなので、今後さらなる報告が待たれます。
参考文献
田村隆幸:ワイン中の鉄は、魚介類とワインの組み合わせにおける不快な生臭み発生の一因である,醸協,105,139-147(2010)
高瀬澄夫・佐原輝光・田丸二三人・坂本守・河野健二・菅原茂:清酒醸造における鉄分(第2報)仕込水、原料米、清酒、清酒かすの鉄分,日本釀造協會雜誌,58巻11号 p.1086-1093(1963)


0 件のコメント:
コメントを投稿