【ペアリングのための論文解説】日本酒の熟成感を生み出しているのは?【ソトロンについて 】

2021/09/12

文献コラム

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はじめに

秋になると各蔵からひやおろしのお酒が発売されてきます。ひやおろしというと半年間熟成させた円熟の味わいが特徴です。

この円熟味をもってして、秋の味覚と合う、とふわっとした言葉で表現されることが多々あります。ですが、実際に円熟味って何?秋の味覚のどことどう相性がいいの?というと言葉に詰まってしまいます。

実はこの熟成に伴う円熟の味わいですが、古くは1970年代から研究が重ねられてきています。

お酒の重厚感や熟成感の正体は?

お酒の円熟味とは、お酒の持つ重厚感や熟成感によってもたらされます。

重厚感や熟成感のある日本酒や紹興酒に共通して感じられるニュアンスとして、ナッツや醤油、根菜類、ドライフルーツなどがあります。このうち香りの成分として、カラメル臭のする”フルフラール"や老酒臭のする"ソトロン"という物質があると考えられてきました。熟成を経たお酒の成分分析から特に強く検出されてきたのがこの2物質でした。

フルフラールは”メイラード反応”という化学反応によって生成されます。醤油や味噌、あるいはステーキの美味しそうな焼き目などの「食欲をそそる香ばしさ」の原因は、メイラード反応によるものであると考えられています。メイラード反応は料理における、”おいしい香ばしさ”の源として注目されています。

ソトロンはお酒の熟成過程で生成され、貴腐ワインや長期熟成したシェリー、ポートワインなどでもみられます。量によって感じ方が変わることが分かっており、量が少ないと糖蜜やシロップのような香りに感じられますが、量が多くなると”老香”と呼ばれる劣化臭となります。またソトロンはフェヌグリークというカレーにも使われるスパイスの種の主成分でもあり、ソトロンの香りがスパイスを思わせる原因でもあります。

日本酒に添加された際の閾値

フルフラールは複数の研究結果において、老香を感じるお酒においても清酒に添加した場合の閾値を超えて検出されてきませんでした。一方ソトロンは閾値を超えて検出されました。このため熟成による焦げ臭やカラメル臭はソトロン由来の部分が大きいのではないかと考えられました。

また併せて、老香を感じる清酒のうち特に年度の若いものの中にはソトロンが閾値を超えてこないものもあり、ソトロン以外の物質による老香への関与も示唆されています。

お酒を料理と合わせていく上では、お酒の持つ熟成感の中でも最重要要素であるソトロンの要素とどう向き合っていくかという点が一つの大きなポイントになると思われます。

ソトロンについて

香気成分のソトロンは閾値が低いことで知られます。低濃度では甘い焦げ臭、キャラメルやメイプルシロップのような香りとして感じられますが、高濃度ではしょうゆ様の香りや、香辛料の香りとして感じられ、その濃さによって感じ方が変わります。またその濃度とともに何に含まれているかによっても不快に感じるか、快く感じるか変わってきます。味としては苦味、押し味として感じられます。

まとめ

・日本酒の熟成感の要素は現在判明しているのはソトロンとフルフラールによるところが大きい。

・その中でも特にソトロンが閾値を超えて検出されており、最重要であると考えられる。

・まだ未解明な部分もあり、今後の新たな要素の発見や、生成経路の発見の可能性も考えられる。

参考文献

磯谷 敦子・宇都宮 仁・岩田 博,清酒の熟成によるソトロンおよびフルフラールの変化,日本醸造協会誌,2004 年 99 巻 5 号 p. 374-380


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