日本酒の香りによる分類
日本酒の分類方法の1つとしてその香りのタイプによって分類する方法があります。日本酒というと、米から作られたお酒ということでお米の匂いなんじゃないの?と思う方も多いかもしれません。
ですが、実際にはさまざまな風味を持つ日本酒が発売されています。酵母によって生み出される華やかな果実を思わせる香りを備えたもの、原料のお米の香りを引き継いでいるもの、その他にも熟成や醸造の過程で様々な香りの因子が寄与しています。
この中でも酵母に由来するフルーティな香りを備えた日本酒というのが、飲みやすいということで特に人気を集めています。 山形県の十四代や出羽桜のお酒で脚光を浴び、山口県の獺祭のお酒で一般に広く浸透したタイプのお酒です。
これまで考えられていた果実の香り
以前までは果実の香りは吟醸香の主要構成要素であるカプロン酸エチル、酢酸イソアミルの濃淡のバランスによって決定されると言われていました。カプロン酸エチルはリンゴのような香り、酢酸イソアミルはバナナやメロンのような香りと言われ、醸造過程において酵母の働きで生まれます。
ですがどうやらこれらの物質だけではなさそうだということで、この2年ほどの間に急速に注目されはじめたのが4MMPという物質です。
これまでの日本酒においても、テイスティングコメントでリンゴやバナナ、メロンなど以外にライチやマスカット、柑橘の香りに言及されることがありました。これまではカプロン酸エチルと酢酸イソアミル、酢酸エチルといった代表的な吟醸香に微量の因子が作用してそのような香りに至っているとして明らかにはなっていませんでした。
4MMPとは?
4MMPというのは、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノンという化学物質の略称です。4MMPはマスカットやライチを思わせる香りを呈します。
その他にワインで知られるチオール類に3MHという物質があります。3MHというのは、3-メルカプトヘキサノールという化学物質の略称です。3MHは柑橘のような香りを呈します。
これらの物質はソーヴィニヨンブランのワインから見出され、他にもワインやホップで広く見られるものとして知られます。
2019年全国新酒鑑評会にて
2019年の新酒鑑評会の予審会において、テイスティングコメントに”マスカット””柑橘”などのコメントが多くあり、これらのサンプルのうち25点について4MMPの含量を測定する研究報告がされました。
大雑把に要約すると以下のような内容となります。
4MMPが生じる条件
4MMPが発生する条件として、原料米に低グルテリン米を用いることが言及されています。低グルテリン米というのは、要はタンパク質含有量の少ないお米ということです。米に含まれるタンパク質が少ないので、タンパク質から分解されるアミノ酸も少なく、その結果酵母が代謝異常をおこして4MMPが生成されると考えられています。
ここで考えてみると、2019年の全国新酒鑑評会にて4MMPが検出されていたのは大吟醸でした。大吟醸に顕著な吟醸造りというのは、アミノ酸度を上げないように低温でじっくり時間をかけて醸造するものでした。この吟醸造りによってアミノ酸不足が起こり、4MMP生成に至ったとする見解もあります。
まとめ
これまで、日本酒においては4MMPという物質が検出されたことは数少ない報告しかなく、 日本酒(その中でも特に品質の高いお酒が集まる大吟醸クラスにおいて)には4MMPは含まれることは考えられていませんでした。ワインやビールにのみ含まれる芳香成分だと考えられていました。
4MMPはチオール類の物質ですが日本酒におけるチオール類というと、DMTS(ジメチルトリスルフィド、たくあんや硫黄のような臭い)などが代表的かと思いますが、これは老香としてむしろネガティブな要素として捉えられてきました。
ですがチオール類の中でも4MMPや3MHという物質が、日本酒においても新たに脚光を浴びるようになってきました。4MMPの生成には原料となる米に依存する要素が大きいことも報告されています。今後は新しい果実様の風味、新たに注目される原料米の動向、などからも目が離せません。
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