【日本酒ペアリングのための料理研究】漬けという調理法について

2021/09/10

ペアリング研究

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漬けに関して

漬けという料理法は、日本では古くから発達してきました。歴史をさかのぼれば平安時代の延喜式などにもその記述を見ることができます。周囲を海で囲まれた日本では、魚が昔から貴重なたんぱく源として重視されてきており、その保存性と嗜好性の向上に工夫が重ねられてきました。

魚の漬けものには、粕漬け、ぬか漬け、味噌漬け、酢漬け、醤油漬けなどがあり、数年間にわたる長期の漬け込みのものから数時間単位の短期の漬け込みのものまであります。長期間のものは塩分濃度も高く、発酵に伴って旨みのアミノ酸を増加させたものが多く、それそのもの自体を味わうというよりも調味料的な役割のものが多くなります。

短期間のものは魚の身肉自体を味わうものが多く、一般的に「漬け」と呼ばれる醬油漬けや、酢漬けなどが分類されます。

漬けの狙い

漬けの処理を行うことで、生魚よりも改善されると期待される点が以下の2点になります。

① 魚臭さを低減させて、好ましい香りに改良する
② 適度な硬さ、もろさ、くずれやすさなどの独特なテクスチャーの付与

特に醤油漬けにおいてはバショウカジキの魚肉の硬さにおいて、

(硬い)←  生魚 >醤油漬け>しょうが汁+醤油漬け  →(柔らかい)

の順に柔らかくなることが報告されて分かっています。これはしょうがを加えたものにタンパク質の分解が起こっていたことによるもので、しょうがに含まれる酵素、プロテイナーゼによってタンパク質の分解が起こって柔らかくなったとされています。

効果的な漬け込み時間ですが、①の臭みけしの効果に関しては醤油の風味による魚臭さの低減が目的なので、短時間で効果的です。②のテクスチャーの変化、柔らかくする目的については、酵素によるタンパク質の分解が必要になってくるので3日~の時間が必要とされてきます。

近年の嗜好としては、生食においては熟れた柔らかい食感よりもフレッシュな食感の方が好まれる傾向にあり、魚の「漬け」においても短時間の漬け時間で臭みけしの効果だけを狙う方が広く好まれるように感じます。

漬けと日本酒の相性

漬けの一例として、家庭でもよく食べられるマアジをサンプルとして、漬けによる日本酒との相性について考えてみましょう。

マアジの食味の特徴は、赤身と白身の特徴を併せ持っているという点にあります。筋肉は若干の淡い赤みを帯びており、血合い筋が発達して内部に入り込んでいます。この点はマグロやカツオといった赤身の魚と似通っており、マアジは分類上は赤身の魚に分類されます。

ですが筋肉を構成するタンパク質のうち水溶性である筋形質タンパク質の含有量は白身魚に近い数値となっています。この点から食感や筋肉部分の味わいは白身魚に近い要素を感じさせます。まず口に入れて感じる白身魚のようなクセの少ない味わいと、後から感じる血合い筋など由来の赤身魚のような複雑味が特徴です。

日本酒との相性を考えるとマアジの後味の魚の臭みが気になるところですので、軽く漬けにして醤油の香りをまとわせて、しょうがやミョウガといった薬味の風味で爽やかさを加えるとお酒との接点をつくってくれて相性が良くなります。

相性のいい日本酒のタイプとしては、クラシカルな辛口純米酒が相性がいいように思います。熟成酒などの個性の強いものとでは魚の味を損なってしまい、酸味が強いお酒だと料理と魚の接点を見出しづらくなることが考えられます。

漬けを活かしたおつまみレシピ

参考・引用文献

下村道子,魚肉の漬物におけるテクスチャーとタンパク質の変化,調理科学,1988年21巻2号p.105-112

河村フジ子・山崎歌織,魚肉の味噌および醤油漬けにおける成分と硬さの変化,東京家政大学研究紀要 2 自然科学,1996年36巻p.49-52

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